
「先生、これおいしそう!」
幼児クラスで英語の絵本を読んでいると、子どもたちからそんな元気な声が聞こえてきます。
クラスで使っているのは、アメリカの子どもたちにも大人気の絵本『Yummy Yucky』。ページをめくるたびに「Yummy!(おいしい!)」「Yucky!(まずい!)」というシンプルでリズミカルな表現がたくさん飛び出します。
一見すると、ただ単に単語を覚えるための初心者向けの絵本に見えるかもしれません。
しかし私は、実はここにこそ英語教育の本質が隠されていると思っています。
なぜなら、子どもたちはただ機械的に単語を記憶しているのではなく、絵本を通じて「自分はどう感じるか」を一生懸命に考えているからです。
正解を探すのではなく、「自分の考え」を持つということ
日本の学校教育や従来の学習環境では、どうしても「正解」を求める場面が多くなりがちです。
テストには必ず明確な正しい答えがあり、その答えをいかに正確に選べるかで点数が決まります。
もちろん、基礎的な知識やルールを身に付けるために、そうした学習も間違いなく大切です。
しかし、私たちが生きる現代社会、そして子どもたちが羽ばたいていく未来には、
「正解のない問い」が溢れています。
生成AIがまたたく間に高度な文章を書き上げ、検索エンジンを使えばどんな知識も瞬時に手に入る時代。
そんな時代に人間に求められるのは、単なる知識の量ではありません。
手に入れた知識や身の回りの情報をもとに、「自分は一体どう考えるのか」を自らの言葉で生き生きと語れる力です。
思考力を深める魔法の質問「Why?」
レッスンのでは、子どもたちにこんな質問をよく投げかけます。
“What’s your favorite food?”(一番好きな食べ物は何?)
すると、子どもたちは元気よく “Pizza!” や “Ice cream!” と答えてくれます。でも、そこで終わりにはしません。
私は必ず、笑顔で次の質問を続けます。
“Why?”(どうして?)
この一言で、子どもたちの頭のギヤがカチッと切り替わります。
ただ知っている単語を口にする段階から、「なぜ好きなんだろう?」と自分の心と向き合う思考の時間が始まるのです。
「Why?」から紡ぎ出される子どもたちの言葉
- “Because it’s delicious.” (おいしいから!)
- “Because I eat it with my family.” (家族と一緒に食べるから!)
- “Because cheese is my favorite.” (大好きなチーズが乗っているから!)
ここで育まれているのは、単なる英語の語彙力や文法力だけではありません。
- 「物事の理由を自分で考える力」
- 「自分のモヤモヤした気持ちを整理する力」
- 「どうすれば相手に伝わるかを考えて説明する力」
これらのすべてが、この短いやり取りの中に凝縮されています。
こうした力は、将来子どもたちがどんな職業に就き、どんな人生を歩むことになっても、
必ず必要とされるいつの時代を変わらないスキルです。
幼児と高校生は、実は「全く同じこと」をしている
不思議に思われるかもしれませんが、幼児クラスで行う “Yummy or Yucky?” の意思表示と、
高校生が大学受験に向けて書く「志望理由書」は、本質的に変わりません。
もちろん、年齢や学習のステージによって表現のレベルは変わりますが、
成長のステップを分解してみってみると、その根っこが一つにつながっていることがよく分かります。
- 幼児期: 自分の「好き」「嫌い」などの直感的な感情を言葉にする練習
- 小学生: 「なぜ好きなのか」という理由を、少しずつ客観的に説明する練習
- 中学生: 社会の出来事に対しても「自分の考え」を持ち、まとまった文章にする練習
- 高校生: 「なぜその大学に行きたいのか」「将来どう社会に貢献したいのか」を論理的に伝える
アプローチの難易度は違っても、目指しているゴールは同じ。
「自分で考え、自分の言葉で伝えること」です。私たちはその大切な土台作りを、
幼児期からスモールステップで少しずつ積み重ねているのです。
英語は目的ではなく、世界を広げるための「道具」
英語を教えながら本当に子どもたちに届けたいのは、英語の知識やスキルだけではありません。
英語はあくまで、世界を広げるためのひとつの道具です。
大切なのは、その道具を使って何をするか。自分が好きなことを語る。
自分の考えを伝える。遠くに住む誰かとつながる。自分とは違う価値観に出会う。
そして、「そんな考え方もあるんだ」と世界を広げていく。
私はそんな経験を、子どもたちにたくさんしてほしいと思っています。
教室では幼児クラスの子どもたちが、”Yummy!””Yucky!”と言いながら、自分の気持ちを言葉にしています。
小学生になると、
“I like it because…”と理由を考えるようになります。
高校生になると、「なぜその大学に行きたいのか」「将来どんな人になりたいのか」を自分の言葉で語ります。
実は、そのすべてが一本の線でつながっています。
私は英語を教えているようでいて、本当は子どもたちの
「自分で考える力」
「自分の言葉で伝える力」
を育てているのかもしれません。
英検の合格も、受験の成功ももちろん大切です。でも、それはゴールではなく通過点。
その先で、自分らしく夢を描き、誰かとつながり、自分の人生を切り拓いていく。
そんな力こそが、教育の本当の価値だと思うのです。だから今日も私は、英語のその先にある未来を見ながら、
子どもたちと向き合います。
未来につながる「一歩」を大切に
英語教育は、単語の暗記ゲームでも、ペーパーテストで高得点を取るためのテクニックでもありません。
幼児クラスでの「Yummy!」という小さくて愛おしい一言から、
高校生が未来を賭けて挑む面接や志望理由書まで。私たち教育者が伴走し、
育て続けているのは常に一貫して「自分で考え、自分の言葉で伝える力」です。
どれほどテクノロジーが進化し、AIが人間そっくりの言葉を操るようになっても、
最後に最も強い価値を持つのは、「あなた自身の生の感情と、あなた自身の頭で考え抜いた意見」に他なりません。
だからこそ私は今日も、目の前の子どもたちが発する「なぜ?」「どうして?」の声を何よりも大切にしながら、
英語という道具を通して、子どもたちの未来につながる確かな力を育てていきたいと思っています。





