
1. 「英語のテストは高得点なのに話せない」とお悩みの保護者の方へ
「学校や塾の英語テストではいつも良い点数を取ってくるのに、いざ外国人を前にしたり、自分の気持ちを話そうとすると、ピタッと口が止まってしまう…」
「英検の面接がとても苦手みたい」
こうしたお悩みをよく伺います。単語の知識も豊富で、ペーパーテストもスラスラ解ける。
それなのに、実際の会話になると言葉が出てこなくなってしまうのは、なぜでしょうか。
「うちの子、度胸がないのかな?」「アウトプットの量が足りないのかな?」と
思われがちですが、決してそうではありません。
これは子どもの能力や性格の問題ではなく、
既存の英語学習が「知識を覚えること」に終始し、「言葉を自分のものにするプロセス」
を飛ばしてしまっているからなのです。
第二言語習得研究(SLA)という学問の視点から、その明確な理由と解決策を解説します。
2. 言語学から見る「文法ができるのに話せない」理由
言語学(第二言語習得論)において、人が持つ知識は大きく2つのレイヤーに分けて考えられています。
| 知識の種類 | 概要 | 脳内での状態 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 明示的知識 (Explicit Knowledge) | ルールを理解し、頭で言葉にして説明できる知識 | 頭の中の「本棚」に保管されている | 文法用語、単語の意味、ペーパーテストの解法 |
| 暗示的知識 (Implicit Knowledge) | 理由を考えずとも、無意識に体で使いこなせる知識 | 「運動神経」のように自動化されている | 自転車の乗り方、とっさの挨拶、日常会話 |
暗記だけでは「話せる知識」に変換されない
ここで最も重要なのは、「ルールを説明できる知識(明示的)」と
「実際に話す時に使える知識(暗示的)」は、脳内での保管場所も仕組みもまったく別物であるという点です。
どれほど文法用語を暗記し、テストで満点を取っても、
その知識は「頭の中の本棚」にきれいに並んでいるだけに過ぎません。
実際のコミュニケーションは、瞬時にボールを打ち返すテニスのラリーのようなもの。
頭の中の本を開いて「ええと、この場面では過去形だから…」と調べていては、会話のテンポには追いつけません。
知識を暗記するだけでは、自動的に「話せる状態」へ移行することはない。
これが、「テストはできるのに話せない」という構造的な理由です。
3. 丸暗記でもフリートークでもない「Focus on Form」とは?
では、「文法の勉強なんて意味がないのか」というと、決してそうではありません。
文法という骨組みがあるからこそ、自分の考えを正確に相手へ届けることができます。
大切なのは「文法をどう学ぶか」です。ここで教室で重視しているのが、
第二言語習得論で提唱される「Focus on Form(フォーカス・オン・フォーム)」という指導アプローチです。
既存の指導法との違い
- Focus on Forms(文法暗記型)
- 文法ルールそのものを目的化し、ドリルを解かせる。知識は増えるが「使えない」状態になりやすい。
- Focus on Meaning(フリートーク型)
- 文法を気にせず、雰囲気で伝えることを重視する。会話は楽しめるが「正しい精度で深い表現ができない」状態になりやすい。
- Focus on Form(当教室のアプローチ)
- 「伝えたいストーリーや思い」がまず存在し、それを表現するプロセスの中で、必要な文法にそっとスポットライトを当てる。
文法知識に、自分自身の文脈の中で「出会い直す」体験をつくるアプローチと言えます。
実際、これは子どもたちへの指導に限った話ではありません。
私がこれまで大人の方々に英語を指導してきた中でも、まったく同じ場面に何度も出会ってきました。
大人の方は、子ども以上にたくさんの単語や文法知識(頭の中の本棚)をお持ちです。
それにもかかわらず話せなくなってしまうのは、やはり「自分の人生や日常」と
「文法ルール」が切り離されたまま学習を重ねてきてしまったからです。
だからこそ教室では、型通りのフレーズを丸暗記させるのではなく、
目の前の一人ひとりが「これまでの人生で何を経験し、今何を考えているのか」という、
その人だけの経験や想いから丁寧に言葉を紡ぎ出すプロセスを何より大切にしています。
自分自身のリアルな実体験や感情が言葉に乗ったとき、初めて発話への心理的なハードルが下がり、
口から自然と言葉が溢れ出すようになります。
単なる「暗記した知識」を、自分の実生活で「本当に使える生きた道具」へと変えていく。
この「自分自身の文脈で言葉を紡ぐステップ」こそが、子供から大人まで世代を超えて、一生モノの確かな英語力を育む確実な近道になると確信しています。
4. 当教室の取り組み:感情と思考が動いた瞬間、文法は「自分の言葉」になる
教室での実際のレッスンでは、単に「今日は過去進行形を勉強します」といった文法主体の進め方はしません。
- 問いかけと思考の発掘 「先週末、一番驚いたことって何?」「どうしてそう思ったの?」
といった問いかけから入り、子ども自身の「伝えたい想い」を丁寧に引き出します。 - 文法との接続(Focus on Form) 「伝えたい!」という内発的な思考が溢れたタイミングで、
「その気持ちを表現するには、この形を使うとぴったりだよ」と文法知識を結びつけます。 - 生きた言葉への昇華 自分の感情と文法構造が重なったとき、頭の中の本棚にあった知識は、初めてその子自身の「生きた言葉」へと変わります。
文法は暗記する記号ではなく、自分の思いの輪郭をはっきりさせるための「レンズ」のような存在なのです。
5. まとめ:正解をなぞる勉強から、思いを差し出す体験へ
英検や定期テストの対策において、あらかじめ用意された模範解答や解法パターンを丸暗記させるやり方は、
短期的には効率的に見えるかもしれません。
しかし、誰かが作った正解をなぞるだけの学習では、
子どもたちが「言葉を使って誰かとつながる手応え」を得ることはできません。
教室で目指しているのはテストの点数という結果のずっとその先。
型にはまった答えを出すのではなく、自分の頭で考えた意見を、
英語という言葉に乗せて相手に届けること。
学術的な裏付けを持ちながら、目の前の一人ひとりの思考のプロセスにじっくり耳を傾ける「伴走者」として、
これからも子どもたちの学びを支えていきます。
【参考文献・理論的背景】 ・白井恭弘(2008)『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』岩波新書 ・栗原洋平(2011)「Focus on Form概念の再検討と英語指導への示唆」 ・Ellis, R. (2001). Task-based Language Teaching and Learning. Oxford University Press. ・Doughty, C., & Williams, J. (1998). Focus on Form in Classroom Second Language Acquisition. Cambridge University Press.
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