2026-09-10

成長マインドセットとは?子どもの「まだできない」を成長につなげる英語教育

「うちの子、すぐに『できない』と言ってしまう」「間違えることを怖がって、なかなか挑戦できない」

そんな子どもの姿を見て、心配になったことはありませんか。
英語を教えていると、「私、英語できないから」「どうせ覚えられない」
「間違っていたら嫌だから、言いたくない」

そんな言葉を耳にすることがあります。
でも、その「できない」は、本当にその子の能力を表しているのでしょうか。

もしかすると、今は、まだできない。

ただ、それだけなのかもしれません。

この「まだ」という考え方につながるのが、心理学者キャロル・S・ドゥエックの研究で広く知られるようになった成長マインドセット(Growth Mindset)です。
成長マインドセットは、単純に「頑張れば何でもできる」という考え方ではありません。

できないことや失敗に出会ったとき、

「自分にはできない」とそこで可能性を閉じるのではなく、
「では、次はどうすればいい?」と考えていくこと。

そして、長く子どもたちと英語を学んできた中で、
私はそれが子ども自身の「考え方」だけの問題ではないと感じています。

子どもが「まだできない」と思えるかどうか。
その背景には、周りにいる大人の言葉や関わり方、そして安心して間違えられる環境も大きく関わっているのではないでしょうか。

今回は「成長マインドセットとは何か」を入り口に、子どもの「できない」とどう向き合うのか、英語教育の現場から考えてみたいと思います。

成長マインドセットとは、スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエックの研究によって広く知られるようになった考え方です。自分の知能や能力を固定されたものとして捉えるのではなく、学習や経験、方法、周囲からの支援などによって発達していく可能性があるものとして捉える考え方です。

対照的なものとして、
Fixed Mindset(固定マインドセット)があります。

例えば、

「私は英語が苦手」「自分には才能がない」「どうせやってもできない」

と考えてしまう。ここで私が気になるのは、「できない」と感じること自体ではありません。誰にでも、できないことはあります。問題なのは、「今できない」という状態を、「私はできない人間だ」という自分自身への評価に変えてしまうこと

です。一方、成長マインドセットを考えるとき、大切な言葉があります。

Not yet.

I can’t do it.

ではなく、

I can’t do it yet.

「できない」ではなく、

「まだ、できない」

と考える。私は、この「まだ」という言葉がとても好きです。なぜなら、今の子どもの姿を否定することなく、その先に可能性を残してくれるからです。

今できないことと、これからもできないことは、同じではありません。

子どもたちと長く関わっていると、成長は決して一直線ではないと感じます。昨日できたことが、今日はできない。一度覚えた単語を忘れている。何度練習しても、なかなか読めるようにならない。
できるようになったと思ったら、またつまずく。そんなことは、日常的にあります。

だから、大人の側も、「こんなにやっているのに、どうして?」

「本当に身についているのかな?」と不安になることがあります。

けれど、少し長い時間軸で子どもを見ていると、「あれ?いつの間にかできるようになっている」という瞬間に何度も出会います。以前は読めなかった単語を、当たり前のように読んでいる。

ずっと聞いていた英語表現が、ある日会話の中から自然に出てくる。長い英文を見るだけで「無理」と言っていた子が、少しずつ自分で読み進めるようになる。

そして、私が特に大切だと思うのは、以前ならすぐに、

「分からない」

と諦めていた子が、少し考えてみようとするようになること。

これはテストの点数には表れにくい変化です。

でも、「すぐに諦めず、もう少し考えてみる」という姿勢そのものが、私は大きな成長だと思っています。

学びは、大人から見えるところだけで進んでいるわけではありません。


だからこそ、「今できるか、できないか」だけで、子どもの力を急いで判断しないこと。


それも、子どもの成長を支える大人に必要な視点なのだと思います。

成長マインドセットについて調べると、「結果ではなく努力を褒めましょう」という説明を目にすることがあります。もちろん、努力を見ることは大切です。ただ、「頑張ったね」と言えば、成長マインドセットが育つというほど単純な話ではありません。
ドゥエック自身も、成長マインドセットが単なる「努力を褒めること」として理解されることについて注意を促しています。

これは、子どもたちと実際に学んでいると、とてもよく分かります。
一生懸命やっているのに、できない子もいるからです。
何度単語を書いても覚えられない。何度音読しても、なかなかスムーズに読めない。
一生懸命問題を解いているのに、同じところで間違える。

そんな子に、

「もっと頑張ろう」と言い続けても、前には進めないことがあります。

むしろ、「こんなに頑張っているのに、自分はできない」という気持ちを強くしてしまうかもしれません。そんなとき必要なのは、努力量を増やすことではなく、方法を変えることかもしれません。

音で覚える。絵と結びつける。文章の中で使ってみる。
一度に取り組む量を減らす。時間を空けて繰り返す。誰かと一緒に考える。

そして、「分からない」「助けて」と言えることも、学ぶ力の一つです。

成長するということは、一人で頑張り続けることではありません。自分に合った方法を探し、ときには誰かの力を借りながら、次の一歩を見つけていく。

そこまで含めて「学ぶ力」なのだと思います。

英語を教えていて、特に感じることがあります。
学年が上がるにつれて、「間違えたくない」という気持ちが強くなる子がいることです。
幼い頃には、知っている英語をどんどん口にしていた。
文法が合っているかどうかなんて気にせず、とにかく伝えようとしていた。

ところが少しずつ、「これで合ってる?」と確認してから話すようになる。
答えが浮かんでいても、確信がなければ手を挙げない。周りの子ができていると、自分の答えを言わなくなる。
もちろん年齢による発達もあります。

でも私は、子どもたちは私たち大人が思っている以上に、

「正解か、不正解か」

「できる子か、できない子か」

という評価を敏感に感じ取っているように思います。

だから、「間違えても大丈夫だよ」と言葉で伝えるだけでは足りないのかもしれません。

本当に必要なのは、間違えたあとも安心してそこにいられる経験。

間違えても笑われない。分からなくても置いていかれない。うまく言えなくても、待ってもらえる。そして、もう一度やってみることができる。

そんな経験の積み重ねが、「分からなくても大丈夫」「もう一度考えてみればいい」
という感覚につながっていくのだと思います。

もちろん、「間違えてもいい」ということは、間違った英語をそのままにしていいという意味ではありません。
英語教室ですから、正しい英語を身につけることも大切です。

重要なのは、間違いをどう扱うか。間違った瞬間に、

「違うよ。答えはこれ」と正解を与えるのか。

それとも、「ここまでは合っているね」「もう一度考えてみようか」「前にやったものと似ているよ」と、
子ども自身がもう一度考える時間を残すのか。すぐに答えを教えれば、授業は早く進みます。

でも、少し待つことで、「あ、分かった!」と、
自分で答えにたどり着く瞬間があります。そのとき子どもが得ているのは、正しい答えだけではありません。
「考えたら、自分で分かった」

という経験です。そんな経験が子どもたちにとっては必要。

なぜなら、その積み重ねが、「分からないことがあっても、自分で考えてみよう」という次の行動につながっていくからです。

英検や学校のテストでは、結果がはっきりと表れます。
合格・不合格。点数。もちろん、結果は大切です。
目標に向かって努力し、結果を出す経験は、子どもたちにとって大きな自信になります。
一方で、長く子どもたちを見ていると、結果と同じくらい大切なのは、その結果の「そのあと」だと感じます。
長文が最後まで読めなかった。そこで、

「英語が苦手だから」で終わるのか。
それとも、「なぜ読めなかったんだろう?」と考えるのか。
語彙が足りなかったのか。読むスピードなのか。文章の構造を捉えることが難しかったのか。
時間配分だったのか。
英作文が書けなかった場合も同じです。単純に英語力だけの問題とは限りません。
そもそも、「自分はどう考えているのか」を言葉にするところで止まっていることもあります。
そうやって「できなかった」の中身を丁寧に見ていくと、次にやるべきことが見えてきます。
テストは、子どもの能力に判定を下すだけのものではありません。
今の自分を知り、次の学び方を考えるための材料にもできると思っています。

成長マインドセットというと、「子どもの考え方をどう変えるか」に目が向きがちです。
でも、私は子どもたちと関わる中で、むしろ大人の側にも問いかけたいと思うようになりました。

「間違えていいよ」と言いながら、間違えた瞬間に正解を教えていないだろうか。
「挑戦してほしい」と言いながら、結果だけを見ていないだろうか。
「自分で考えて」と言いながら、大人が先回りして答えを用意していないだろうか。
子どもが困っていると、私たちは助けたくなります。失敗しないようにしたい。

遠回りをさせたくない。正しい方法を教えてあげたい。もちろん、必要なサポートは大切です。
でも、ときには大人が少し待つことでしか育たないものもあります。

「どうしたらいいと思う?」「ほかの方法はあるかな?」「どこまでなら分かる?」

そんな問いを返してみる。すぐに答えが出なくても、その時間そのものが、
自分の学びを、自分で動かしていく練習になります。子どもに成長マインドセットを持ってほしいなら、

「成長できると信じよう」と伝えるだけではなく、
子ども自身が「やってみよう」と思える環境を、大人がつくること。

こちらも同じくらい大切なのだと思います。

ここでもう一つ、触れておきたいことがあります。成長マインドセットについては、その後もさまざまな研究が行われています。大規模な研究では、特定の生徒や学校環境において学習上のプラスの効果が報告されています。

一方で、複数の研究をまとめて検討したメタ分析では、成長マインドセットへの介入が学業成績に与える効果は全体として小さい、あるいは研究条件によって結果が異なることも指摘されています。

つまり、「成長マインドセットを身につければ、誰でも成績が上がる」

という単純なものではありません。この考え方を「成績を上げるための方法」としてだけ捉える必要はないと思います。

それよりも、できないことに出会ったときに、
「自分には能力がない」で終わるのではなく、「ほかの方法はないかな」
「誰かに聞いてみよう」「もう一度やってみよう」と考えられること。

学び続けるための土台となる考え方の一つ

として捉えることに、大きな意味があるのではないでしょうか。

英語教室ですから、もちろん英語力を伸ばすことは大切です。

読む。

聞く。

書く。

話す。そして、自分の考えを英語で伝える。
でも、18年間子どもたちと関わってきて、英語を学ぶ過程には、それ以上のものがあると感じています。
できないことに出会う。思うようにいかない。間違える。自信をなくすこともある。

それでも、方法を変えてみる。もう一度考える。誰かに聞いてみる。少し時間を置いて、またやってみる。

そして、昨日までできなかったことが、少しできるようになる。
そんな経験を繰り返しながら、子どもたちは英語だけではなく、

「自分は、ここからまた進める」という感覚も育てているのではないでしょうか。

I can’t do it yet.

今は、まだできない。

この「まだ」は、「頑張れば必ずできる」と無責任に約束する言葉ではなく
今できない自分を認めながら、それでも自分の可能性をそこで閉じないための言葉にできたらと思います。

だから、できないことに出会ったとき、「じゃあ、次はどうしよう?」と考えられる子を育てたい。
英語を学ぶ時間が、正解をたくさん出すためだけの時間ではなく、

挑戦する。

考える。

間違える。

方法を変える。そして、またやってみる。

そんな経験を積み重ねられる時間になるように。子どもたちが、「まだ、ここから成長できる」と思える場所でありたい。それが、日々子どもたちと関わる中で、私が大切にしていることの一つです。

Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.

Dweck, C. S. (2016). “What Having a ‘Growth Mindset’ Actually Means.” Harvard Business Review.

Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., et al. (2019). “A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement.” Nature, 573, 364–369.

Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023). “Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices.” Psychological Bulletin, 149(3–4), 133–173.

※本記事は、キャロル・S・ドゥエックによるマインドセット研究およびその後の教育分野における研究を参考にしながら、英語教育の現場で感じていることを筆者自身の視点からまとめています。

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